設備・保全技術

振動診断とは?設備保全で何を測り何が分かるのか|基礎と資格への接続

依
依田尚人

著者・監修 ・ YDAIコンサルティング株式会社 代表

8分
目次

振動診断とは、回転機械が出している振動の大きさと成分を測り、設備を分解せずに内部の異常の有無と原因の見当をつける手法です。運転を止めずに測れるため、状態を基準にした保全の中心的な手段になっています。

導入の解説は計測機器やセンサーの製品説明として書かれていることが多く、「何を測ると何が分かるのか」という原理と、それが保全職のキャリアにどうつながるのかを合わせて整理した情報は多くありません。

本記事では、振動診断の基礎を現場で使う言葉で整理し、機械保全技能検定の設備診断作業との接続まで示します。試験制度に関する記述は公式の試験要項・実施公示を一次ソースとしています(確認日2026-09-07)。

振動診断で分かること

回転機械は、正常に動いているときにも一定の振動を出しています。その振動の大きさや周波数の構成は、内部の状態が変わると変化します。

振動診断は、この変化を捉える手法です。大きさが増えたかどうかで異常の有無を判断し、どの周波数成分が増えたかで原因の見当をつけます。

分解せずに測れることが最大の利点です。設備を止めて開けるまで分からなかった内部の状態を、運転中に外から推定できます。これにより、点検のために止める回数を減らしながら、故障の兆候を早めに拾えるようになります。

一方で、振動診断はすべての異常を検知できる万能な手法ではありません。回転する部位から離れた場所の劣化、振動として現れにくい変化には向きません。何を測っているのかを理解したうえで、適用範囲を見極める必要があります。

振動診断で分かることを示す図。振動の大きさから異常の有無、周波数成分から原因の見当をつける関係を表す
振動診断で分かることを示す図。振動の大きさから異常の有無、周波数成分から原因の見当をつける関係を表す

何を測るのか — 変位・速度・加速度

振動を数値で表すとき、現場では3つの量が使い分けられます。それぞれ得意な領域が違います。

3つの量の性格

変位は、振動によって物がどれだけ動いたかという「幅」です。ゆっくりした振れを捉えるのに向きます。

速度は、動きの速さです。回転機械の全体的な振動の大きさを見るときに使われることが多い量です。

加速度は、動きの変化の激しさです。速い振動、細かい振動を捉えるのに向き、高い周波数の成分を見るときに使われます。

使い分けの考え方

異常の種類によって、振動が現れる周波数の帯域が違います。ゆっくりした振れとして出るものは変位で、細かい衝撃として出るものは加速度で捉えやすくなります。

そのため「振動値」という一言でまとめず、どの量で測った数値なのかを必ず記録します。同じ設備でも、量が違えば数値の意味が変わるためです。

変位・速度・加速度の使い分けを示す図。低い周波数から高い周波数に向けて、それぞれの量が得意とする領域を帯で表す
変位・速度・加速度の使い分けを示す図。低い周波数から高い周波数に向けて、それぞれの量が得意とする領域を帯で表す

測定条件も同様です。測る位置、方向、運転状態が変わると数値も変わります。傾向で判断する手法である以上、前回と同じ条件で測ることが前提になります。

簡易診断と精密診断

振動診断は、目的の違いから2つの段階に分けて運用されます。

簡易診断は「異常かどうか」を見る

簡易診断は、決めた点を定期的に測り、値が普段と比べて大きくなっていないかを見る段階です。多くの設備を短時間で回るため、判断は「正常か、要注意か」の粗い区分になります。

ここで重要なのは、絶対値そのものよりも変化です。同じ設備の過去の値と比べて上がってきているかどうかで、次の段階に進むかを決めます。

精密診断は「原因は何か」を見る

簡易診断で異常の疑いが出た設備について、周波数ごとの成分を細かく分析し、原因を絞り込む段階が精密診断です。どの周波数に成分が現れているかによって、想定される原因が変わります。

精密診断は時間も技能も要するため、すべての設備に対して行う運用は現実的ではありません。簡易診断で対象を絞り、精密診断に進むという二段構えが基本形になります。

この二段構えは、運用の負荷配分としても合理的です。簡易診断は決められた点を短時間で回る作業なので、担当を広げやすく、日常点検の中に組み込めます。精密診断は判断に経験を要するため、少数の担当者に集約するほうが技能が積み上がります。

導入がうまくいかない現場では、この段階分けが曖昧になっていることがあります。すべての設備で細かい分析を求めると測定が続かず、逆に簡易診断だけで止まると原因が特定できないまま様子見が続きます。どの設備をどちらの段階まで見るのかを、設備台帳の単位で決めておくと運用が安定します。

簡易診断と精密診断の二段構えを示す図。定期測定で異常の疑いを拾い、対象を絞って周波数分析で原因を特定する流れを表す
簡易診断と精密診断の二段構えを示す図。定期測定で異常の疑いを拾い、対象を絞って周波数分析で原因を特定する流れを表す

予知保全の中での位置づけ

振動診断は、状態を基準にした保全を成り立たせる手段のひとつです。

設備の状態を測って判断する保全では、測定値が異常の水準に達したかどうかで処置を決めます。さらに測定を継続して傾向を追い、異常に至る時期を見積もって処置の時期を決めると、予知保全の運用に近づきます。

したがって振動診断の価値は、1回の測定ではなく記録の蓄積で決まります。測定機器を導入しただけでは傾向が出ず、判断の材料になりません。同じ条件で測り続ける運用と、記録を読む技能の両方が要ります。

保全方式の分類と、状態基準・予知保全の位置づけは予防保全・事後保全・予知保全・TPMの違いの記事で整理しています。

測定から予知保全へ進む段階を示す図。同じ条件での定期測定、しきい値との比較、記録を重ねた傾向の把握、異常に至る時期の見積もりという4段階を並べる
測定から予知保全へ進む段階を示す図。同じ条件での定期測定、しきい値との比較、記録を重ねた傾向の把握、異常に至る時期の見積もりという4段階を並べる

資格につなげる — 機械保全技能検定の設備診断作業

設備の状態を測って判断する技能は、国家検定の対象になっています。

機械保全技能検定には、機械系保全作業・電気系保全作業・設備診断作業という3つの作業区分があり、設備診断作業は1級・2級にだけ設定されています(出典: 2026年度実施公示・試験要項・確認日2026-09-07)。3級には設定されていません。

実技は判断等試験です。公式は「受検者に対象物又は現場の状態、状況等を原材料、標本、模型、写真、ビデオ等を用いて提示し、判別、判断、測定等を行わせることにより技能の程度を評価する試験」と定義しています(出典: 試験要項・確認日2026-09-07)。課題数と時間は1級が10課題100分、2級が8課題80分です。

なお電卓を使用できるのは、特級の実技試験と設備診断作業の実技試験だけです(出典: 公式Q&A・確認日2026-09-07)。測定値をもとに計算する課題が含まれる構成であることが、この扱いからも読み取れます。

設備診断作業と振動診断の接続図。現場の測定技能が検定の判断等試験として評価される関係を示す
設備診断作業と振動診断の接続図。現場の測定技能が検定の判断等試験として評価される関係を示す

現場で測定を担当している人にとっては、日常業務がそのまま試験範囲と重なる区分です。試験の詳細は機械保全技能士の設備診断作業とはで整理しています。

まとめ

振動診断は、回転機械の振動の大きさと成分から、分解せずに内部の異常の有無と原因の見当をつける手法です。変位・速度・加速度の使い分けと、簡易診断から精密診断への二段構えが基本の枠組みになります。

価値が出るのは記録の蓄積からです。条件をそろえた継続測定があってはじめて傾向が読め、予知保全の運用につながります。測定を担当しているなら、機械保全技能検定の設備診断作業が技能を裏づける選択肢になります。

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よくある質問

Q. 振動診断は運転を止めずにできますか
運転中に外から測れることが振動診断の利点です。分解せずに内部の状態を推定できるため、点検のために設備を止める回数を減らせます。ただしすべての異常が振動として現れるわけではないため、適用範囲の見極めが必要です。
Q. 変位・速度・加速度はどれを測ればよいですか
異常の種類によって現れる周波数の帯域が違うため、目的に応じて使い分けます。ゆっくりした振れは変位、全体的な振動の大きさは速度、細かい振動や衝撃は加速度で捉えやすくなります。どの量で測った数値かは必ず記録してください。
Q. 1回測っただけで判断できますか
判断の基本は変化です。同じ条件で測り続けた記録と比べて、値が上がってきているかどうかで次の段階を決めます。測定位置・方向・運転状態が変わると数値も変わるため、条件をそろえた継続測定が前提です。
Q. 振動診断の技能を証明できる資格はありますか
機械保全技能検定に設備診断作業という作業区分があり、1級・2級に設定されています。実技は提示された状態から判別・判断・測定を行う判断等試験で、1級10課題100分、2級8課題80分です(出典: 試験要項・確認日2026-09-07)。

出典

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