予防保全・事後保全・予知保全・TPMの違い|用語の整理と現場での使い方
著者・監修: 依田尚人(YDAIコンサルティング株式会社 代表)
保全方式は、壊れてから直す事後保全と、壊れる前に手を打つ予防保全に大きく分かれます。予防保全はさらに、時間で区切って手を入れる方式と、設備の状態を見て判断する方式に分かれ、予知保全はこの状態を見る考え方を進めたものです。
現場では、これらの言葉が人によって少しずつ違う意味で使われます。会議で「予防保全に切り替える」と言われたときに、定期交換の話なのか状態監視の話なのかで、必要な準備がまったく変わります。
本記事では、設備保全の現場で使われる保全方式の用語を整理し、機械保全技能検定の作業区分との対応まで示します。なお用語の細かい定義は文献や企業によって幅があるため、ここでは現場で通用する区分として整理します。
保全方式の全体像
まず、大きな枝分かれを押さえます。
| 分類 | 何をするか | 判断のきっかけ |
|---|---|---|
| 事後保全 | 故障・停止してから復旧する | 故障の発生 |
| 予防保全(時間基準) | 決めた周期で点検・交換する | 経過時間・稼働時間 |
| 予防保全(状態基準) | 状態を測り、劣化の兆候が出たら手を入れる | 測定値・傾向 |
| 予知保全 | 状態の変化から異常や寿命を予測して手を打つ | 傾向の予測 |

この4つは、優劣の順番ではありません。どの方式を採るかは、設備が止まったときの影響と、状態を測るためにかかる手間・費用の兼ね合いで決まります。
用語の英語表記に引きずられて混乱することもあります。時間基準保全をTBM、状態基準保全をCBMと略す言い方は現場でも使われますが、社内で通じるかどうかは職場によります。会議では略語を使う前に、何を指しているかを一度言葉で確認しておくと齟齬が減ります。
事後保全と予防保全
2つの基本形を、それぞれの合理性から見ていきます。
事後保全は「悪い方式」ではない
事後保全は、故障してから直す方式です。計画的でないという印象から劣った方式と見なされがちですが、すべての設備を予防保全でカバーするのは現実的ではありません。
止まっても生産に影響しない設備、予備機がある設備、交換部品が安く入手も容易な設備では、壊れてから直すほうが総コストが小さくなります。事後保全は、意識的に選ぶ方式でもあります。
問題になるのは、選んだ結果としての事後保全ではなく、方式を決めないまま結果的にすべてが事後保全になっている状態です。
予防保全は「いつ手を入れるか」の設計
予防保全は、故障する前に手を入れる方式です。ここで決めるべきは「何を交換するか」ではなく「いつ手を入れるか」の判断基準になります。
時間基準で組むと運用は単純になりますが、まだ使える部品を捨てる、あるいは周期の途中で壊れるという両方の無駄が出ます。状態基準にすると無駄は減りますが、状態を測る仕組みと、測定値を読む技能が必要になります。

予知保全と状態を見る考え方
予知保全は、状態基準の考え方をさらに進めたものです。測定値が異常値に達したかどうかではなく、値の変化の傾向から、いつ異常に至るかを見積もって手を打ちます。
現場での違いは、判断のタイミングに現れます。状態基準では「しきい値を超えたから交換する」ですが、予知保全では「この傾きなら来月には到達するので、次の停止機会に交換する」という判断になります。
そのため予知保全は、1回の測定ではなく、同じ条件で測り続けた記録があってはじめて成立します。導入時に測定機器だけを揃えても、記録と読み方の運用がなければ、状態基準の運用にとどまります。
近年は振動・温度・電流などをセンサーで常時監視する仕組みも広がっていますが、仕組みの新しさと方式の分類は別の話です。センサーを付けても、しきい値超過で止めるだけなら状態基準の運用です。

TPMと生産保全は「方式」ではない
用語の混乱が最も起きやすいのがここです。
TPMや生産保全は、事後保全・予防保全・予知保全と並ぶ「方式」ではありません。どの方式をどこに割り当てるかを含めて、保全を組織全体でどう運営するかという活動・考え方の枠組みです。
たとえば「うちはTPMをやっているから予防保全です」という説明は、階層が噛み合っていません。TPMの中で、設備ごとに事後保全・予防保全・予知保全を配分するのが本来の関係です。
保全予防という言葉も別の層にあります。これは、設備の設計・調達の段階で、保全しやすさや故障しにくさを作り込むという考え方です。運用に入ってからの方式選択ではなく、その前の段階に働きかけます。

会議で用語がずれていると感じたら、「方式の話か、活動の枠組みの話か、設計段階の話か」を確認すると噛み合います。
自主保全という言葉も、方式とは別の層にあります。これは、日常的な清掃・給油・増締めや異常の発見を製造部門が担い、保全部門は専門的な処置に集中するという役割分担の考え方です。誰がやるかの話であって、いつ手を入れるかの話ではありません。
こうした用語が混ざるのは、それぞれが違う問いに答えているためです。方式は「いつ手を入れるか」、活動の枠組みは「組織としてどう運営するか」、保全予防は「そもそも壊れにくく作れるか」、自主保全は「誰が担うか」に答えています。問いの単位で並べ直すと、社内資料の整理もしやすくなります。
どの方式を選ぶかの判断軸と、資格との接続
方式の割り当ては、設備ごとに次の3点で判断すると整理しやすくなります。
1つ目は、止まったときの影響です。生産ライン全体が止まるのか、予備機で代替できるのかで、予防に投じてよいコストが変わります。
2つ目は、劣化の見えやすさです。振動や温度、電流といった測れる指標に劣化が現れる設備なら状態基準に乗せられます。突発的に壊れるタイプの部品では、状態基準の効果が出にくくなります。
3つ目は、測る手間です。測定に人手と時間がかかりすぎるなら、時間基準のほうが運用として続きます。続かない仕組みは方式として機能しません。
この「状態を測って判断する」技能は、国家検定の対象にもなっています。機械保全技能検定には設備診断作業という作業区分が1級・2級に設定されており、実技は現物や標本・模型・写真・映像で提示された状態から判別・判断・測定を行う判断等試験です(出典: 試験要項・確認日2026-09-07)。

状態基準・予知保全に現場を寄せていくなら、測定と判断の技能を検定で裏づけていく道筋があります。設備診断作業の試験内容は機械保全技能士の設備診断作業とはで整理しています。
よくある質問
予防保全と予知保全はどう違いますか
予防保全は故障前に手を入れる方式の総称で、時間基準と状態基準に分かれます。予知保全は状態基準の考え方を進め、測定値の変化の傾向から異常に至る時期を見積もって処置する方式です。1回の測定ではなく、継続した記録が前提になります。
事後保全は避けるべきですか
避けるべきものではありません。止まっても生産に影響しない設備、予備機がある設備、部品が安く入手も容易な設備では、事後保全のほうが総コストが小さくなります。問題は、方式を決めないまま結果的にすべてが事後保全になっている状態です。
TPMは保全方式のひとつですか
方式ではありません。どの設備にどの方式を割り当てるかを含め、保全を組織全体でどう運営するかという活動の枠組みです。方式(事後・予防・予知)とは階層が異なります。
保全方式は検定でも扱われますか
機械保全技能検定には設備診断作業という作業区分が1級・2級に設定されており、実技は提示された状態から判別・判断・測定を行う判断等試験です(出典: 試験要項・確認日2026-09-07)。状態を測って判断する技能が検定の対象になっています。
まとめ
保全方式は事後保全と予防保全に大別され、予防保全は時間基準と状態基準に分かれます。予知保全は状態基準の延長で、測定の傾向から処置の時期を見積もる方式です。
TPMや生産保全は方式ではなく活動の枠組み、保全予防は設計段階の考え方で、それぞれ階層が違います。用語がずれていると感じたら、どの層の話をしているかを確認すると議論が噛み合います。
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出典
- 試験要項|機械保全技能検定(日本プラントメンテナンス協会)(kikaihozenshi.jp)
- 2026年度 機械保全技能検定の試験概要について(実施公示)(kikaihozenshi.jp)
著者・監修
依田尚人YDAIコンサルティング株式会社 代表
依田尚人は YDAIコンサルティング株式会社 代表。設備保全・フィールドサービスの資格制度・公的統計・働き方について、試験実施機関・所管省庁等の公開情報を一次ソースまで確認する工程を標準として、本サイトの記事を設計・監修しています。
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