機械の危険源とリスクアセスメント|設備保全での進め方を条文から
著者・監修 ・ YDAIコンサルティング株式会社 代表
機械の危険源を洗い出して対策を講じる、いわゆるリスクアセスメントは、労働安全衛生法28条の2が定める努力義務です。そして製造業は、この条文がただし書きで対象としている業種に含まれます。
「やったほうがよい活動」として語られることが多い一方、いつ実施すべきかは省令に具体的な定めがあります。設備を新しく入れたとき、作業手順を変えたときは、条文が実施時期として挙げている場面です。
本記事では、労働安全衛生法と労働安全衛生規則の条文を一次ソースに、条文上の要件と設備保全での進め方を整理します(e-Gov法令検索で条文本文を確認。安衛法は2026年4月1日施行の版、安衛則は2026年8月1日施行の版、確認日2026-09-08)。
根拠条文は安衛法28条の2
まず、条文が何を求めているのかを正確に押さえます。
安衛法28条の2第1項は、事業者に対し、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、または作業行動その他業務に起因する危険性または有害性等を調査し、その結果に基づいて、法令の措置のほか、労働者の危険または健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならないと定めています(確認日2026-09-08)。
条文の語尾は「努めなければならない」です。つまり努力義務であり、罰則を伴う義務規定とは条文上の位置づけが異なります。この点は正確に区別して扱ってください。
| 項目 | 条文上の内容 |
|---|---|
| 根拠 | 労働安全衛生法28条の2第1項 |
| 性格 | 努力義務(「努めなければならない」) |
| 調査の対象 | 建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、または作業行動その他業務に起因する危険性・有害性等 |
| 対象から除かれるもの | 法57条1項の政令で定める物、法57条の2第1項の通知対象物による危険性・有害性等 |
| 業種の限定 | 化学物質等に係るもの以外の調査は、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事業者に限る |

なお同条2項は、厚生労働大臣が措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとすると定め、3項でその指針に従って事業者または団体に必要な指導、援助等を行うことができるとしています(確認日2026-09-08)。
製造業は対象業種に含まれる
条文のただし書きは、化学物質等に係るもの以外の調査について業種を限定しています。その省令が安衛則24条の11第2項です。
同項は、法28条の2第1項ただし書の厚生労働省令で定める業種を、令2条1号に掲げる業種および同条2号に掲げる業種(製造業を除く)と定めています(確認日2026-09-08)。この規定により、製造業は対象業種に含まれます。
したがって工場の設備保全部門にとって、危険性・有害性等の調査は条文上の射程内にある活動です。「大企業だけの話」ではなく、業種で線が引かれています。

実施すべき時期は4つ
現場で最も実務的な規定が、実施時期です。安衛則24条の11第1項は、法28条の2第1項の調査を行う時期を4つ挙げています(確認日2026-09-08)。
| 号 | 実施時期 |
|---|---|
| 1号 | 建設物を設置し、移転し、変更し、または解体するとき |
| 2号 | 設備、原材料等を新規に採用し、または変更するとき |
| 3号 | 作業方法または作業手順を新規に採用し、または変更するとき |
| 4号 | 前3号のほか、危険性または有害性等について変化が生じ、または生ずるおそれがあるとき |
設備保全の文脈で効いてくるのは2号と3号です。設備の更新や部品の変更、保全手順の見直しは、いずれも条文が挙げる実施時期に当たります。
4号があることも重要です。設備の劣化が進んで挙動が変わった、周辺の作業環境が変わったといった場面は、「危険性または有害性等について変化が生じ、または生ずるおそれがあるとき」に当たり得ます。

裏を返すと、条文は「定期的に実施する」という時期の定め方をしていません。年1回の行事として回すだけでは、2号・3号の契機を取りこぼします。設備や手順を変えるプロセスの中に組み込むほうが、条文の趣旨に沿います。
保全部門で実際に起きやすいのは、2号の「変更するとき」の解釈です。設備の更新だけでなく、部品を別メーカーのものに替えた、治具を作り直した、消耗品の仕様を変えたといった変更も、条文の文言としては「設備、原材料等を変更するとき」に含まれ得ます。
3号も同様です。作業手順書を書き換えたときはもちろん、書き換えていなくても実際のやり方が変わっているなら、「作業方法または作業手順を変更するとき」に当たるかを検討する余地があります。文書の改訂の有無ではなく、実際の作業が変わったかどうかで見るほうが条文の趣旨に近い読み方です。
設備保全での進め方
条文の要件を踏まえたうえで、保全部門が実務に落とすときの観点を整理します。
第一に、対象の単位を決めることです。条文が挙げる調査対象は「建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等」と「作業行動その他業務」の両方です。設備そのものと、その設備に対して行う保全作業の両面から見る必要があります。
第二に、危険源の洗い出しの視点を揃えることです。機械であれば、動く部分、鋭い部分、高温・低温の部分、電気、圧力、位置エネルギーといった観点で機械的に拾っていくと、担当者による差が出にくくなります。
第三に、洗い出した危険源に対する措置を、法令上すでに定められている措置と、それ以外の措置に分けることです。条文は「この法律またはこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか」と書いており、法令上の措置は前提です。たとえば掃除・給油・検査・修理の作業での運転停止と起動防止は安衛則107条・108条の規定があり、これは調査の結果を待たずに求められる措置です。詳細は設備の点検・修理・清掃時の安全措置の記事で整理しています。
第四に、変更管理とつなげることです。実施時期の2号・3号が「新規に採用し、または変更するとき」である以上、設備変更や手順変更の承認フローの中に調査を置くのが条文の構造に合います。

保全作業そのものが危険源になる
見落とされやすい観点があります。設備の運転時ではなく、保全作業時に固有の危険源です。
通常運転では人が近づかない場所でも、点検や修理では人が入ります。カバーを外した状態、インターロックを解除した状態、複数人が同時に作業している状態は、運転時のリスク評価には現れません。
そのため、設備の危険源と保全作業の危険源は分けて洗い出すのが実務的です。安衛則24条の11第1項3号が「作業方法または作業手順」の変更を実施時期として挙げているのも、作業側に固有のリスクがあることを前提にした規定と読めます。

なお本記事は条文の一般的な解説です。個別の設備・作業についての判断や、自社の実施体制が条文の求める水準を満たすかどうかの評価は、所轄の労働基準監督署や専門家にご確認ください。
まとめ
機械の危険源の調査は安衛法28条の2第1項の努力義務で、製造業は安衛則24条の11第2項により対象業種に含まれます。実施時期は同条1項が4つの契機として定めており、設備の変更と作業手順の変更が保全部門に直接関わります。
条文は法令上の措置を前提としたうえで、それ以外に必要な措置を講じるよう求めています。運転停止と起動防止のように既に規定がある措置は調査の結果を待たずに実施し、そのうえで設備側と保全作業側の危険源を分けて洗い出してください。
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よくある質問
- Q. リスクアセスメントは法律上の義務ですか
- 安衛法28条の2第1項の語尾は「努めなければならない」であり、条文上は努力義務です(確認日2026-09-08)。ただし調査の結果に基づいて講ずべき措置のうち、法令に規定があるものは法令上の義務としてそのまま適用されます。
- Q. 製造業は対象になりますか
- なります。化学物質等に係るもの以外の調査は「製造業その他厚生労働省令で定める業種」に属する事業者に限るとされ(安衛法28条の2第1項ただし書)、その省令が安衛則24条の11第2項です(確認日2026-09-08)。
- Q. いつ実施すればよいですか
- 安衛則24条の11第1項が4つの時期を挙げています。建設物の設置・移転・変更・解体、設備や原材料等の新規採用・変更、作業方法または作業手順の新規採用・変更、そのほか危険性・有害性等に変化が生じまたは生ずるおそれがあるときです(確認日2026-09-08)。
- Q. 定期的に実施する決まりはありますか
- 条文は実施時期を4つの契機として定めており、周期の定めは置かれていません(安衛則24条の11第1項・確認日2026-09-08)。設備や手順を変えるプロセスに組み込む形が条文の構造に沿います。
出典
- 1.労働安全衛生法(e-Gov法令検索)(laws.e-gov.go.jp)
- 2.労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)(laws.e-gov.go.jp)