設備・保全技術

保全作業に必要な特別教育・技能講習の範囲|3つの制度を条文で整理

依
依田尚人

著者・監修 ・ YDAIコンサルティング株式会社 代表

11分
目次

設備保全で名前が挙がる「特別教育」「技能講習」「作業主任者」は、根拠条文がそれぞれ別の3つの制度です。特別教育は安衛法59条3項、就業制限に係る技能講習は同法61条、作業主任者は同法14条が根拠で、対象となる業務・作業も別々の政省令で定められています。

現場では「講習を受けないとできない作業」としてひとくくりに語られがちですが、制度が違えば対象も要件も違います。自分の担当作業がどれに当たるのかを条文の階層で把握できると、社内の教育計画も整理しやすくなります。

本記事では、労働安全衛生法・施行令・労働安全衛生規則の条文を一次ソースに、3制度の違いと設備保全に関係する対象を整理します(e-Gov法令検索で条文本文を確認。法・令は2026年4月1日施行の版、規則は2026年8月1日施行の版、確認日2026-09-08)。

3つの制度の違い

まず全体像です。3つは目的も根拠も対象の定め方も違います。

制度根拠条文対象を定める法令制度の性格
特別教育安衛法59条3項安衛則36条危険・有害業務に就かせるときに事業者が行う教育
就業制限(免許・技能講習)安衛法61条1項安衛令20条資格がなければその業務に就かせられない
作業主任者安衛法14条安衛令6条作業区分ごとに選任し、労働者を指揮させる
特別教育・就業制限・作業主任者の3制度を対比した図。根拠条文と対象を定める法令、制度の性格の違いを並べる
特別教育・就業制限・作業主任者の3制度を対比した図。根拠条文と対象を定める法令、制度の性格の違いを並べる

決定的に違うのは、制限のかかり方です。特別教育は「教育を行う」ことが事業者の義務ですが、就業制限は資格がなければ業務に就かせてはならず、就業できる者以外はその業務を行ってはならないと定められています(安衛法61条1項・2項・確認日2026-09-08)。

作業主任者はさらに違い、作業に従事する全員ではなく、選任された1人が労働者を指揮する立場に置かれる制度です(安衛法14条・確認日2026-09-08)。

特別教育 — 安衛法59条3項と安衛則36条

特別教育は3制度のうち最も広く保全作業に関わります。

安衛法59条3項は、事業者に対し、危険または有害な業務で厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、当該業務に関する安全または衛生のための特別の教育を行なわなければならないと定めています(確認日2026-09-08)。同条1項は雇入れ時の教育、2項は作業内容を変更したときの準用です。

対象業務を定めているのが安衛則36条です。設備保全に関係する号を条文から抜き出すと、次のとおりです(確認日2026-09-08)。

号業務
1号研削といしの取替え、または取替え時の試運転の業務
2号動力プレスの金型、シヤーの刃部、またはプレス機械・シヤーの安全装置・安全囲いの取付け、取外し、調整の業務
3号アーク溶接機を用いて行う金属の溶接、溶断等の業務
4号高圧・特別高圧の充電電路またはその支持物の敷設・点検・修理・操作の業務ほか(下記参照)
14号小型ボイラーの取扱いの業務
31号産業用ロボットの可動範囲内で行う教示等の業務
32号産業用ロボットの可動範囲内で運転中に行う検査・修理・調整等の業務
39号足場の組立て、解体または変更の作業に係る業務(地上または堅固な床上における補助作業を除く)
41号高さ2メートル以上で作業床を設けることが困難なところで、フルハーネス型の墜落制止用器具を用いて行う作業に係る業務
保全作業に関係する特別教育の対象業務を示す図。研削といし、動力プレス、アーク溶接、電気、小型ボイラー、ロボット、足場、フルハーネスの区分を並べる
保全作業に関係する特別教育の対象業務を示す図。研削といし、動力プレス、アーク溶接、電気、小型ボイラー、ロボット、足場、フルハーネスの区分を並べる

4号は電圧の区分まで条文に書かれています。高圧は直流750ボルトを、交流600ボルトを超え7,000ボルト以下である電圧、特別高圧は7,000ボルトを超える電圧と定義され、低圧は直流750ボルト以下、交流600ボルト以下です。低圧については充電電路の敷設・修理の業務のほか、配電盤室・変電室等の区画された場所に設置する低圧の電路のうち充電部分が露出している開閉器の操作の業務が対象に含まれます(確認日2026-09-08)。

31号と32号の区別も実務上重要です。31号は教示等(マニプレータの動作の順序・位置・速度の設定、変更、確認)で駆動源を遮断して行うものを除く業務、32号は可動範囲内で運転中に行う検査・修理・調整等の業務です(確認日2026-09-08)。同じロボットでも、何をするかで号が分かれます。

就業制限 — 安衛法61条と安衛令20条

就業制限は、資格がなければ業務に就けないという強い制限です。

安衛法61条1項は、クレーンの運転その他の業務で政令で定めるものについて、都道府県労働局長の免許を受けた者、都道府県労働局長の登録を受けた者が行う技能講習を修了した者、その他厚生労働省令で定める資格を有する者でなければ、当該業務に就かせてはならないと定めています(確認日2026-09-08)。

さらに2項で、就業できる者以外はその業務を行なつてはならないとし、3項では業務に従事するときは免許証その他その資格を証する書面を携帯していなければならないと定めています。携帯義務がある点は、特別教育にはない特徴です。

対象業務を定めるのが安衛令20条です。設備保全に関係する号は次のとおりです(確認日2026-09-08)。

号業務
3号ボイラー(小型ボイラーを除く)の取扱いの業務
4号前号のボイラーまたは第一種圧力容器(小型圧力容器を除く)の溶接の業務(自動溶接機による溶接等を除く)
5号ボイラーまたは令6条17号の第一種圧力容器の整備の業務
6号つり上げ荷重5トン以上のクレーンの運転の業務
7号つり上げ荷重1トン以上の移動式クレーンの運転の業務(道路上の走行運転を除く)
11号最大荷重1トン以上のフォークリフトの運転の業務(同)
15号作業床の高さ10メートル以上の高所作業車の運転の業務(同)
16号制限荷重1トン以上の揚貨装置、またはつり上げ荷重1トン以上のクレーン・移動式クレーン・デリックの玉掛けの業務
就業制限に係る業務の一覧図。ボイラーの取扱い・溶接・整備、クレーン、フォークリフト、高所作業車、玉掛けの区分を示す
就業制限に係る業務の一覧図。ボイラーの取扱い・溶接・整備、クレーン、フォークリフト、高所作業車、玉掛けの区分を示す

なお技能講習そのものについては安衛法76条が、法14条または法61条1項の技能講習は別表第18に掲げる区分ごとに学科講習または実技講習によつて行うと定め、修了者に技能講習修了証を交付しなければならないとしています(確認日2026-09-08)。

作業主任者 — 安衛法14条と安衛令6条

作業主任者は、選任して指揮させる制度です。

安衛法14条は、高圧室内作業その他の労働災害を防止するための管理を必要とする作業で政令で定めるものについて、都道府県労働局長の免許を受けた者または登録を受けた者が行う技能講習を修了した者のうちから、作業の区分に応じて作業主任者を選任し、その者に当該作業に従事する労働者の指揮その他の事項を行わせなければならないと定めています(確認日2026-09-08)。

対象作業を定めるのが安衛令6条です。設備保全に関係する号は次のとおりです(確認日2026-09-08)。

号作業
2号アセチレン溶接装置またはガス集合溶接装置を用いて行う金属の溶接、溶断または加熱の作業
4号ボイラー(小型ボイラーを除く)の取扱いの作業
15号つり足場、張出し足場または高さ5メートル以上の構造の足場の組立て、解体または変更の作業
17号第一種圧力容器(小型圧力容器等を除く)の取扱いの作業
21号別表第六に掲げる酸素欠乏危険場所における作業
作業主任者を選任すべき作業の一覧図。溶接装置、ボイラー、足場、第一種圧力容器、酸素欠乏危険場所の区分を示す
作業主任者を選任すべき作業の一覧図。溶接装置、ボイラー、足場、第一種圧力容器、酸素欠乏危険場所の区分を示す

ボイラーは、令20条3号で就業制限の対象、令6条4号で作業主任者の対象と、両方に登場します。取扱いに就くための資格と、作業を指揮する立場の選任が別に定められている構造です。ボイラー取扱作業主任者の選任区分は伝熱面積によって分かれます。

教育計画に落とすときの見方

3制度の違いを踏まえると、社内の教育計画は次の順で整理できます。

第一に、担当作業を条文の対象に突き合わせます。研削といしの取替え、動力プレスの金型交換、アーク溶接、高圧の充電電路の点検、産業用ロボットの教示や運転中の検査といった作業は、いずれも安衛則36条に号があります。

第二に、就業制限に当たる業務がないかを確認します。就業制限は資格がなければ就けない業務であり、教育を受ければよいという性質のものではありません。

第三に、作業主任者を選任すべき作業が自社にあるかを確認します。こちらは全員が資格を取る話ではなく、選任される人を確保する話です。

第四に、資格の携帯です。就業制限の業務に従事するときは、免許証その他その資格を証する書面を携帯していなければなりません(安衛法61条3項・確認日2026-09-08)。

教育計画への落とし込み手順を示す図。担当作業の突き合わせ、就業制限の確認、作業主任者の選任、資格の携帯という4段階を表す
教育計画への落とし込み手順を示す図。担当作業の突き合わせ、就業制限の確認、作業主任者の選任、資格の携帯という4段階を表す

なお本記事は条文の一般的な解説で、安衛則36条・令20条・令6条の全号を列挙したものではありません。自社の作業がどの号に当たるかの判断や、教育時間・カリキュラムの詳細は、所轄の労働基準監督署や専門家にご確認ください。

教育の対象になる作業は、危険源の洗い出しとも表裏の関係にあります。安衛則24条の11第1項3号は作業方法・作業手順を新規に採用しまたは変更するときを調査の実施時期としており、担当作業が変われば教育の要否も見直しの対象になります。詳細は機械の危険源とリスクアセスメントの記事で整理しています。

まとめ

特別教育(安衛法59条3項・安衛則36条)、就業制限(安衛法61条・安衛令20条)、作業主任者(安衛法14条・安衛令6条)は根拠も対象も別の3制度です。教育を行う義務、資格がなければ就けない業務、選任して指揮させる作業と、制限のかかり方が違います。

保全部門の教育計画は、担当作業を条文の号に突き合わせるところから始めると漏れが出にくくなります。ボイラーのように3制度に重複して登場する対象もあるため、制度ごとに分けて確認してください。

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よくある質問

Q. 特別教育と技能講習はどう違いますか
根拠条文が違います。特別教育は安衛法59条3項に基づき事業者が行う教育で、対象業務は安衛則36条が定めます。技能講習は安衛法76条に基づく講習で、法14条の作業主任者または法61条1項の就業制限の資格として位置づけられます(確認日2026-09-08)。
Q. 就業制限の業務は資格がないと本当にできないのですか
安衛法61条1項は資格を有する者でなければ業務に就かせてはならないと定め、2項で就業できる者以外は当該業務を行なつてはならないとしています。3項では従事するときの資格証の携帯義務も定められています(確認日2026-09-08)。
Q. 産業用ロボットの作業はどの号ですか
安衛則36条31号が可動範囲内で行う教示等(駆動源を遮断して行うものを除く)の業務、32号が可動範囲内で運転中に行う検査・修理・調整等の業務です(確認日2026-09-08)。作業の内容で号が分かれます。
Q. ボイラーは特別教育と就業制限のどちらですか
小型ボイラーの取扱いの業務は安衛則36条14号の特別教育の対象、小型ボイラーを除くボイラーの取扱いの業務は安衛令20条3号の就業制限の対象です。またボイラー(小型を除く)の取扱いの作業は安衛令6条4号で作業主任者の選任対象でもあります(確認日2026-09-08)。

出典

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